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旧ソ連圏のベラルーシから欧州連合(EU)への入域を目指す3千人以上の移民・難民が、EU加盟国のポーランド国境に押し寄せ、緊張が高まっている。
ポーランドやEUは、EUが経済制裁しているベラルーシのルカシェンコ政権が、報復のために中東から移民・難民を呼び寄せてEUへ送り込もうとしていると非難している。
ベラルーシ当局は、旅行業者を使って中東各国から飛行機で欧州移住希望者を集め、観光用などの査証(ビザ)を発給している。入国後はバスで国境付近へ運び、置き去りにしているという。このような非人道的な動きは直ちに停止されるべきだ。
ルカシェンコ政権は、同国上空を飛行中の欧州の旅客機を強制着陸させ、政権に批判的なジャーナリストを拘束した。国内では、民主化を求める反体制派を弾圧している。このため、EUが今年6月から制裁を発動中だ。
移民・難民の意図的な送り込みについて、EUのフォンデアライエン欧州委員長は、制裁への報復として弱い立場にある移民らを盾に使った「独裁国家によるハイブリッド攻撃」だと非難し、ベラルーシへの制裁強化を表明した。
ハイブリッド攻撃とは、軍による正規戦ではなく、謀略やサイバー攻撃、フェイクニュースの流布、民兵や特殊部隊などを複合して用いる、敵対的行為を指す。
ポーランドは国境封鎖を検討中だ。移民・難民の多くはドイツを目指している。
ドイツのメルケル首相は電話会談でロシアのプーチン大統領に仲介を要請した。だが、プーチン氏は、EU加盟国とベラルーシの協議を呼びかけるにとどまった。
ベラルーシの今回の謀略的動きをロシアが支援しているとの見方が広がっている。ロシアは現場付近の上空に戦略爆撃機を飛ばし、「ベラルーシとの共同パトロールだ」と称した。
ルカシェンコ大統領は、EUが制裁を強化すればロシア産天然ガスのパイプラインを止めると威嚇した。
解決のめどが立たない中で国境付近の森林地帯で立ち往生している移民・難民は、厳しい寒さに苦しんでいる。低体温症など命の危機にさらされた幼児もいる。ベラルーシとEU、国際社会は人道支援を急がなくてはならない。
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2021年11月14日付産経新聞【主張】を転載しています